HISTORY
なぜ、ゴスペルの歌声を聴くと、魂が揺さぶられるのでしょうか。
ゴスペルの起源は、16世紀のはじめからアメリカに連れてこられた黒人奴隷によって歌われ始めた黒人霊歌です。
彼らはそれまで、アフリカで自然の恵みや驚異と調和した生活をしながら、祈りや祭りとともに自然のエネルギーに溢れるリズムや音楽を育んでいました。
しかし彼らは、近代化が進む白人社会の安価な労働力として奴隷商人に捕らえられ、無理やり異国に商品として連行され、強制労働をさせられる運命をたどるのです。
特にアメリカでは白人による移民開拓の最盛期で、数百人にものぼる黒人が奴隷として輸入され、白人奴隷主たちに農場や家畜小屋で働かされました。
黒人奴隷は肌の色の違いを根拠に同じ人間として扱われず、家畜同様に過酷な労働を強いられ、反抗すれば肌を鞭打たれ、消耗品のように殺されることも当たり前でした。
また、彼らは、奴隷を肯定する強引な聖書解釈をもとに白人奴隷主に無理やりキリスト教に改宗させられました。
しかし、彼らは聖書のメッセージに、自分達と同様に差別を受けたイエス・キリストの行き様を見い出し、苦しみを乗り越える希望と喜びを得たのです。
その喜びを、彼らの故郷のリズムや音楽をもとに、神への感謝や賛美を力強く歌いました。
ゴスペルミュージックの特色であるCall&Responseは、聖書を手に入れることも、教育が乏しく文字を読むことも困難な中で、聖書を読むことのできる人が一説を叫び、それを会衆が繰り返し合唱して分かち合う中から生まれました。
また、譜面や形式化した進行にとらわれず、神との対話に従い、自由に力強く表現する即興性の高い文化や音楽が生まれてきたのです。
迫害を乗り越えてきた黒人奴隷の厳しい歴史をばねに生まれたゴスペルミュージックは、時代を経て、そのエネルギーは黒人が奴隷から解放されるときの原動力となりました。
そして、1960年代の公民権運動の際には、アメリカでの人種差別を武器で戦うのではなく、共に歌い理解しあうことで乗り越えることを可能としたのです。
このように、ゴスペルミュージックには人種を超えて、神への賛美を通してともに理解しあう力があるからこそ、言葉にできない感動が生まれるのでしょう。
そして、それは現代の『壁』の多い社会でも、国籍や人種、性別、年齢の違いはおろか、文化や宗教までも超えて、ともに理解しあう喜びが、ゴスペルミュージックの根底に流れているからではないでしょうか。
こうした感動を秘めた音楽であるからこそ、ゴスペルミュージックは黒人だけのものにとどまらず、迫害を加え続けた白人をはじめとして、世界中に広まっていったのです。
そして、その流れにのって、キリスト教の信仰を持っている人(クリスチャン)だけでなく、クリスチャン以外の人々にもゴスペルミュージックを愛し、歌い続ける人が現れるようになりました。